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浦和地方裁判所 昭和31年(ワ)262号 判決

原告 株式会社埼玉銀行

被告 筧園蔵 外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「浦和地方裁判所が債権者原告、債務者社団法人埼玉新聞社間の有体動産強制執行事件について作成した配当表を取消す。被告筧園蔵の債権並びにこれに対する配当を削除し、原告および被告大木武雄の債権額に応じ平等の配当に変更する。又は原告および被告両名の債権額に応ずる平等配当に変更する。訴訟費用は被告筧園蔵の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、浦和地方裁判所は債権者原告から債務者訴外社団法人埼玉新聞社に対する有体動産強制執行事件について、被告等の配当要求に基いて昭和三十一年九月四日の配当期日において別表〈省略〉記載のとおりの配当表を作成した。原告は右配当期日に出頭し後記理由により右配当表による配当に異議を申立てたが被告がこれを承諾しないので同日異議は未完結に了つた。被告筧の配当要求の趣旨は同被告の社団法人埼玉新聞社に対する同新聞社事務局長としての昭和三十年十二月以降昭和三十一年六月までの給料合計金二十二万円の債権(昭和三十一年四月までは一ケ月金三万円同年五月以降は一ケ月金三万五千円)に対する配当を求めたものであるが、被告筧は右新聞社に対し斯る債権を有しないものである。仮に同被告が斯る債権を有するとしても、民法第三百八条にいわゆる雇人は家族的労務者に限定されるから社団法人埼玉新聞社の事務員である被告筧は同条にいわゆる雇人に該当しないので、同被告の右給料債権については同条所定の先取特権はない。仮に最後の六ケ月分給料金十九万円について先取特権があるとしても、同被告は右給料債権について普通債権として配当要求をしたのであつて、先取特権の主張をしたものではないからこれに優先権を与えるのは失当である。よつて右配当表はいずれの点からみても失当のものであるから、請求の趣旨記載の如く該配当表の変更を求めるため本訴に及んだ次第であると述べた。〈立証省略〉

被告両名訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、被告筧は訴外社団法人埼玉新聞社に対し同新聞社事務局長としての昭和三十年十二月以降昭和三十一年六月まで給料二十二万円(昭和三十一年四月までは一ケ月三万円、同年五月以降は一ケ月金三万五千円)の債権を有するので右債権について本件配当要求したものであるから本件配当表は正当である。故に原告主張の如く本件配当表を変更すべき理由なく、原告の本訴請求は失当であると述べた。〈立証省略〉

理由

浦和地方裁判所が債権者原告の債務者社団法人埼玉新聞社に対する有体動産強制執行事件について被告等の配当要求に基いて昭和三十一年九月四日別表記載のとおりの配当表を作成したこと、原告は右配当期日に出頭して右配当表に対し異議を申立て被告筧がこれを承諾しなかつたため異議が完結しなかつたことは当事者間に争がない。而して証人岩田三史の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証の一、二、並びに同証人及び証人藤倉旭、同猿山儀三郎、同村上孔堂の各証言を綜合すると、被告筧は昭和三十年十二月一日から社団法人埼玉新聞社に事務局長として在職し同新聞社に対し同日以降昭和三十一年六月までの未払給料合計二十二万円(昭和三十一年四月までは毎月三万円、同年五月以降は毎月三万五千円)の債権を有することが認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。次に原告は、被告筧は家族的労務者ではなく民法第三百八条の雇人には当らないから被告筧の右給与債権については先取特権は存在しないと主張するのでこの点につき考えるに、

民法第三百八条は単に雇人と規定するにとどまり、雇人が家族的労務者に限定される趣旨か否かは明文上明らかではない。ところで商法第二百九十五条によれば会社と使用人との間の雇傭関係に基いて生じた債権については民法第三百八条の雇人給料の先取特権と同順位の先取特権が認められているのであるが、仮に民法第三百八条の雇人を家族的労務者に限定して解すれば、会社の従業員は商法により、家族的労務者は民法により、それぞれ恩恵を蒙るが民法上の社団、財団又は個人企業の使用人には些かの恩恵も与えられないという著しい不均衡が生ずる。而してこれらの使用人について前者と特に区別して取扱うべき別段の理由も認められないから民法第三百八条の雇人は家族的労務者に限定されないと解するのが相当である。

しかりとすれば原告の右主張は採用できない。

次に原告は被告筧は配当要求に当り先取特権の主張をしていないからこれに優先権を認めるのは違法である旨主張するので、この点につき判断するに、成立の争いのない甲第一号証によれば、被告筧は社団法人埼玉新聞社の事務局長たる身分と、昭和三十年十二月分より昭和三十一年六月分まで七ケ月間の給与債権金二十二万円を有していることを明示して、配当要求をしていることが認められるので、先取特権が法律上当然生ずる物権であることを併せ考えれば、この配当要求に対し、一般債権に優先する順位を認めることは当然であるから、原告の右の主張も採用できない。

よつて原告の本訴請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西幹殷一)

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